『鳩よ!』

(給与)豆
(ボーナス)米
(勤務地)空

(詳細)
鳩よ! 
全国の鳩よ!
公園で人間にへつらいながら
豆を欲する時代は終わりを告げようとしている! 
高架下にまどろみ、ベランダの端に隠れ棲み、
豆鉄砲におびえる生活を、
この七色に輝く羽根でふりはらってくれよう!

われわれ鳩はここに宣言する! 
鳩の自立を! 
鳩の実力をいかんなく発揮できる事業の発足を! 
そう、ほかでもない、郵政事業への参入を!

はるか昔、古代エジプト時代より、
鳩は人間たちの通信手段として活躍してきた歴史を持つ。
ここ日本でも、昭和と呼ばれる時代までは、
新聞社、通信社などでも情報の迅速な伝達に
おおいに役立っていた。
しかし現在では、マジシャンの帽子から飛びだすくらいが関の山である。

しかしながら、鳩よ! 
鳩たちよ! 

ここにきて、政府から嬉しい知らせが届いた。
郵政事業の民営化である。
いま立ち上がらずして、いつ立ち上がらん! 
否、羽ばたかん!
果たしてわれわれは、
郵政民営化のどさくさに紛れることを決意したのだ!

言うまでもなく鳩は空が飛べる。
赤い色をした自転車やオートバイなどにまたがり、
エンジンをふかしたり赤信号で待ったりする時間は必要ない。
ポストや郵便局も無用だ。
鳩は全国にくまなく生息している。
人間は、手紙を出すために、
わざわざ靴を履き、歩き、投函しなくてもよい。
われわれ鳩ならば、庭先やベランダにすぐさま出動できる。

金銭を財布から出し、切手を購入し、
ミシン目に沿って切り取り、裏に水分を付着させ、
ペタリと貼る手間は一切かけさせない。
その替わりに豆をいただくのだ。
一文字につき一豆とする。
百文字で百豆。
単純明快、合理的なシステムだ。

この仕事は登録制となっている。
年齢や性別は問わない。資格もいらない。
唯一必要なことは、
『鳩である』
という事実だけだ。

給与は、言うまでもなく、豆。
毎月月末に、稼いだ豆の一割を全国鳩組合に納めていただく。
この豆は、組合の活動や、
長年働いた者への退職豆に当てたいと考えている。

登録したその日から働いてもらう。
聴覚と視覚を研ぎ澄ませて空を飛ぶのだ。
すると、どこかしらの庭先やベランダから笛を吹く音、
もしくは手を振る人間の姿が見えてくるだろう。
着地後すみやかに手紙の文字数を調べ、相応の豆をいただく。
あとは羽ばたくのみだ! 
自由に、優雅に、大空を舞うがいい!

この事業をはじめるにあたり、
宅配の業界においてすでに成功を収められている
鳥類の先輩をビジネスモデルとさせて頂いた。
ペリカンの方々だ。
事業発足当時は、あの容量たっぷりのクチバシと、
渡り鳥である、という利点を生かし、
世界中に小包を届けられていた。
しかし軌道に乗った現在はデスクワークに徹し、
人間たちをアゴで、否クチバシで指図するのみ。
ほとんどの経営陣は南国で優雅に暮らしているという。
素晴らしき鳥である。

その敬愛する先輩を含め、我々鳥類をおびやかす、
にっくき敵がはびこっているという噂を聞いた。
クロネコだ。
クロネコのやつらがハバをきかせ、
地上をのさばっているというのだ。
我々のヒナを狙うばかりか、ビジネスの邪魔までするとは、
なんたる横暴者であろうか。

ここはひとつ我々が結託して、
クロネコどもの横行を阻止せねばならない。
全国ハト組合会合を重ねた結果、
我々はついにクロネコ撃退の方法をあみだした。

やつらはキラキラしたものが苦手らしい。
そこでペットボトルに水を入れ、
庭先やベランダに置いておくのだ。
そうすれば太陽の光がキラキラと反射して、
クロネコどもは逃げ出してしまうに違いない。
完璧だ。

鳩よ!
ペットボトルを並べるのだ! 
その七色に輝く光で、クロネコどもを追い払ってくれよう!

書き手 山田